小笠原諸島の外来種で「和紙」や「木工製品」を作ろう 〜世界遺産における生態系を守る取り組み〜

ギンネムの和紙を漉く風景

こんにちは、夏野葉月です。
東京から南に1000kmに位置する小笠原諸島。
この小笠原にある企業「小笠原グリーン株式会社」では、この島に生息する外来種「ギンネム」を利用して和紙を作る実験事業が行われています。
また同じく外来種である「アカギ」を利用した木工製品を作り、島の経済活性化に取り組もうという試みもなされています。
こうした外来種を使った実験的な事業はなぜはじまったのでしょうか。
小笠原諸島の生態系を守るために大切な「固有種」と「外来種」の関係について解説しつつ、小笠原の環境保全をしていくための新たな取り組みを紹介します。

【動画】小笠原諸島の外来種「アカギ」からウクレレや木工製品が制作される過程を取材した動画です。

1:海洋島・小笠原諸島の成り立ちと「固有種」と「外来種」の関係

          
2011年に世界自然遺産に指定された小笠原諸島は、大陸と一度もつながったことがない「海洋島」です。
海洋島とは大陸島の対義語で、大洋上に誕生してから過去に大陸と地続きになったことがない島のことをいいます。
海洋島は島の成り立ちによって「火山島」と「珊瑚島」に分けられます。
例えば日本の本州は大陸とつながったことのある「大陸島」で、小笠原諸島は「海洋島」です。
また海洋島の中でもハワイ諸島や小笠原諸島は「火山島」、マーシャル諸島は「珊瑚島」に分類されます。
また火山島は、大陸性火山が成因の「陸島」と海洋性火山が成因の「洋島」にさらに分類されます。
海洋島は大陸とつながったことがないので、風に乗って分散できる植物などの生物、自力で飛翔移動ができる鳥類やオオコウモリなど生物、海流によって漂着した生物だけが生息・生育しています。
こうした植物や鳥類や昆虫などの生物は、大陸と隔離されたまま島で独自の進化を遂げて固有の生態系となります。
こうした固有の環境で進化の発達した生物を「固有種」と呼びます。
例えば小笠原諸島では、ほとんどの陸鳥と陸上植物の約4割、陸産貝類(カタツムリ類など陸域を主な生活空間とする貝類)の約4分の3が小笠原諸島の固有種となっています。こうした島で独自進化を遂げた固有種に対し、島の環境外から持ち込まれた種を「外来種」と呼びます。
小笠原諸島に持ち込まれた外来種として代表的なものは、野ヤギ・野ネコ・クマネズミなどの哺乳類や、ギンネムやアカギなどの植物、グリーンアノールやニューギニアヤリガタリクウズムシなどが挙げられます。

小笠原諸島父島のウェザーステーション

小笠原諸島父島の展望台、ウェザーステーションの眺望。写真右の森に今回の環境省事業で伐採される外来種が生育しています。

2:小笠原諸島の生態系を脅かす「外来種」ってなにが問題?

            
こうした海洋島独自の生態系を持つ小笠原諸島は2011年に世界自然遺産に登録されました。
ですが、その小笠原では固有種の個体数が激減し、種によっては絶滅の危機に陥っています。
その原因として、小笠原諸島に流入し生息し始めた外来種の存在が挙げられます。
そもそも、小笠原諸島は1830年にナサニエル・セーボレーをはじめとする初期移住者たちが移住するまで、完全な無人島でした。
そして野ヤギやギンネムなど外来種は、人間が島を開拓する上で資源として他の地域から持ってこられた生物です。
例えば小笠原諸島にいる多くの野ヤギは、四つ足の哺乳類のいなかった小笠原において貴重なタンパク源として飼育されたものが野生化したものです。
つまり外来種のほとんどは、人間が小笠原に移住し開拓するうえで有益だと判断され、外部から持ち込まれたものでした。
当初は人間の生活に役に立つと考えられて持ち込まれた外来種でしたが、島における人間の生活圏が拡大し、外来種と固有種の生態系への影響の違いが判明するにつれ問題となってきました。
なぜなら、小笠原の固有種は独自の環境の中で外敵や競争相手の少ない生息環境で進化してきました。
そのため環境の変化に弱く、また捕食力や成長速度の早い植物などに容易く負けてしまいます。
比べて外来種は生命力が旺盛で、成長スピードが早く、捕食能力の高い種が多いです。
こうした違いもあり、固有種は外来種に捕食されたり生存環境を奪われることで急速に数を減らしており、種によっては絶滅の危機に瀕しています。
また貴重な固有種が数を減少したり絶滅することは、生態系のバランスそのものを崩し、まだ生きている固有種が生息を続けることがさらに困難になります。
小笠原では、こうした固有種の絶滅を防ぐために、様々な環境保全の取り組みが行われています。

外来種アカギ

ウェザーステーションに生息する外来種「アカギ」。名前の通り、綺麗な赤色の木材になります。

3:植物の外来種「ギンネム」や「アカギ」たちの駆除はなぜ必要なの?

        
では、小笠原の固有種を脅かす外来種に対して、これまでどのような取り組みが行われてきたのでしょうか。
小笠原諸島で自然保全活動に取り組む企業、小笠原グリーン株式会社の活動を事例に小笠原の環境保護を紹介します。
小笠原グリーンは外来種の伐採事業や公園整備や小笠原の公共施設の管理などを行っている会社です。
小笠原では有人島である父島と母島以外にもたくさんの無人島があります。
それら無人島は戦前に人が暮らした島もありました。
そしていまは無人島な島でも、人間が生活した名残として外来種が残っています。
小笠原に生息する野生化した山羊「野ヤギ」は、小笠原に移住した人々が食料として島の環境外から持ち込み、その後野生化しました。父島にはいまも多数の野ヤギが生息しています。
また父島や兄島、弟島のある父島列島の北には聟島列島があります。
聟島列島には聟島、嫁島、媒島などがありますが、これら島々にも以前は野ヤギが多数生息していました。
ですが、固有種の生態系保護のために野ヤギを全て駆除したところ、思わぬ弊害が生まれました。
野ヤギは餌としてたくさんのギンネムという外来植物を食べていました。
ですが、野ヤギが駆除されて食べる哺乳類がいなくなったことで、多くのギンネムが成長し、他の固有種の植物の生育を圧迫するまでになりました。
またギンネム以外にも、成長力の旺盛な多数の外来種の植物が小笠原の固有種の生育を阻害しています。
現在小笠原グリーンでは、公共事業の一環として人の手作業や除草剤を使ってギンネムやアカギの駆除に取り組んでおり、その成果として聟島におけるギンネムの根絶が成功しつつあります。
固有種はある意味脆弱なバランスの元に生育しています。
そうした大切な小笠原の固有種を保全するために、成長力の強過ぎる外来種の駆除活動はどうしても必要なのです。

ギンネムの伐採風景

ウェザーステーションに生息する外来種「ギンネム」の伐採風景。伐採したギンネムで和紙が作られます。

4:ただ駆除するだけじゃない、外来種を資源に「和紙」や「木工製品」を作ろう

     
かつて無人島だった小笠原ですが、人間の移住と開拓により、以前から住んでいた環境とは徐々に変化してきました。
小笠原諸島の美しい固有種の蝶「オガサワラシジミ」を食べてしまうグリーンアノールや固有の植物の生育を脅かすギンネムやアカギやガジュマルなどの植物など、小笠原には沢山の外来種が持ち込まれるようになりました。
こうした外来種の駆除を含めた生態系保全活動は、小笠原では多数行われています。
ですが、これまで駆除された外来種が有効活用されることはありませんでした。
こうした外来種は駆除された後、処分や廃棄されていました。
そこで小笠原グリーンでは、こうした捨てられる外来種の有効活用に取り組む実験的な事業が始まりました。
小笠原グリーンの取り組みは環境省に助成金を受けられることになり、2020年10月から始動しています。
小笠原グリーンが今回取り組んでいるのは「伐採したアカギによる木工製品の製作」と「伐採されたギンネムの樹皮を使った和紙作り」です。
アカギは名前の通り、製材すると美しい赤い色をした木材になります。
小笠原グリーンはマホガニーにも近いこの木材を内地の企業に試験的に提供し、楽器メーカーや家具メーカーの協力によってウクレレや家具が製作されました。
また今回の事業では、父島の展望台「ウェザーステーション」の眺望を妨げているアカギやギンネムを伐採し、その伐採した木材を資源として、木製のスマホスタンドや和紙を作って、島の資源として活用しようという活動を行われるそうです。
また、制作された和紙や木工製品は島のイベントでノベルティグッズとして配布される予定があるそうです。
この事業では小笠原で働く島民が雇用されて和紙作りや木工製品の制作に取り組むことになっており、コロナ禍で収入が減少した島民へ新たな仕事を提供する役割も担っています。

ギンネムの樹皮剥ぎ風景

伐採されたギンネムの樹皮を剥ぎます。全部人力でやっています。

ギンネムを叩いている風景

剥いだギンネムの樹皮を叩いて和紙の原料となる繊維にします。

ギンネムの和紙を漉く風景

叩いたギンネムの繊維を水の中で漉き、和紙にします。

5:まとめ 〜固有種も外来種も活かした小笠原諸島の「持続可能な開発」について考えてみよう〜

小笠原諸島は太平洋戦争後米軍に占領され、1968年に日本に返還されました。
小笠原が日本に返還後、様々な環境保全の取り組みが行われてきましたが、今まで外来種も含め樹木資源を活かした産業は行われてきませんでした。
今回の小笠原グリーンでの事業は、これまでただ駆除され捨てられてきた外来種が新たな島の資源となり、雇用も産むこともできるという新しい取り組みだと言えます。

外来種は小笠原諸島の生態系を乱す存在です。
ですが同時にこの地球に生きる植物や動物として見るなら、一生懸命に生きる大切な生物の一つです。
小笠原全体の生態系を守るために外来種の駆除が必要なら、ただ駆除するのではなく有効活用していくことは、地域全体の持続可能な開発につながっていきます。
外来種を資源として使うことで、新しい産業を起こすことも可能かもしれません。

小笠原グリーンの取り組みは、外来種を木材として木工製品や和紙などの加工に取り組みを通じて、地域の課題を資源として活用し更に産業としていく持続可能な開発を地域に提案することを目指しています。
こうした新たな取り組みは、小笠原だけでなく外来種の流入に悩む島嶼地域の新たなロールモデルになるのではないでしょうか。
そう考えると、いままでただ邪魔者と思っていた外来種に対する見方も変わるかもしれません。
その一つのきっかけとして、ギンネムの和紙やアカギの木工製品がお土産に買える日が来たら、楽しいと思います。

固有種も外来種も人間も、小笠原諸島の生態系を維持する一員には違いありません。
であるならば、小笠原諸島全体で「持続可能な開発」を目指していけたら素敵ですね。
あなたもぜひご自身のお住まいの地域で「人間も生態系も持続可能な開発ってどんな方法があるだろう?」って考えてみてくださいね。

完成したギンネムの和紙

外来種「ギンネム」から作られた和紙が完成しました。綺麗な和紙ですね!

アカギのウクレレ

外来種「アカギ」を使って作られたウクレレ。とても素敵な音色がします!

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    1976年生まれ。写真家&文筆家。幼少期に虐待を経験後、中学で不登校に。20歳通信制高校へ進学+22歳法政大学へ入学。25歳で躁うつ病を発病後、フリーランスカメラマンに。2010年キヤノン写真新世紀佳作受賞。2013年小笠原諸島移住中にスイスで写真展を開催。2016年鎌倉に移住。2019年小笠原諸島に再移住。